2017.12.27 UP DATE

【連載】プレスラー追っかけ記 No. 2 <マスタークラス聴講:後編> ~演奏を、学ぶことを、新しい感じ方を、愛して~


 

(「前編」からのつづき) 
 少し詳しく紹介しましょう。

 

 マスタークラスの1組目は「トリオ デル アルテ」。シューベルト作曲のピアノ・トリオのある箇所(練習番号C)では、チェリストに対して、自分の奥深くを見つめ「聴衆に優しく語る」ことが大切であることを強調したうえで、ピアニッシモのメロディの歌い方と弓の運び方について、身振りを交えながら伝えていました。

 

 またこの美しいメロディを支えるピアノのあり方についても、ベース(ヘ−ホ−へ音)のつなぎ方、そして右手の分散和音の腕の運びといったテクニックを伝授。プレスラー自身も、このメロディを美しく演奏するグリーンハウス(ボザール・トリオの初代チェリスト)をどのようにして支えたらよいか、いつも苦心していたことを述懐していました。

 

 そして往年の名演奏家の逸話を交えながら、「どの曲に対しても真摯に練習を重ねることが必要で、優秀な演奏家とは、技術ではなく自分が感じたことを音で表現できる人たちなのだよ」と語られていたのが印象的でした。

 

  ◇ ◇ ◇

 

「音楽を通して、聴き手とコミュニケートする気持ちを持たなければダメだ」
(『メナヘム・プレスラーのピアノ・レッスン』第9章「思いを込めて演奏すること」より)

 

 休憩をはさみ、2組目の加藤陽子(vc)と稲生亜沙紀(p)。この二人のデュオによるブラームス作曲チェロ・ソナタの演奏には、プレスラーも大賞賛。情熱的で見事なアンサンブルを聴かせてくれました。

 

 しかし、それでもプレスラーはより良い演奏になるようなアドバイスをたくさん与えています。例えば、ピアノに対して出だしの弱拍の和音について、「弦楽器のアップボウのように弾きなさい」と比喩的に述べ、ある箇所ではピアノのフォルテの連打を「大きすぎるよ。この部屋にいる人を皆殺しにしている!」とユーモラスに注意。

 

 一方で、「フレーズのクライマックスに目指してクレッシェンドをコントロールするように」とか「両手のどの音にメロディがあるのかをしっかり捉えて、音を捉えなさい」など直接的な指示もあり、豊かな表現を自由自在に操って、作曲家が求めた音楽を受講生らから引き出していていましたが、多くの指示は、『メナヘム・プレスラーのピアノ・レッスン』でも指摘していることで、プレスラーの長年変わらぬ指導理念と音楽に対する厳しい態度を確認することができました。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 最後には、演奏者たちから自由に質問できる時間を設け、自らの経験を交えて誠実に答えていました。

 

受講生】本番を多く抱えている時の練習方法は、どうすればいいでしょうか?
プレスラー】あまり多くの本番を抱えるべきではありません。というのは、プロであれば、お客さんがお金を払ってでも聴きたいクオリティをいつも保つことが必要だからです。少しずつ練習を進め、本番の前には、多くの人の前で弾き、コメントをもらうのもいいでしょう。自分の楽器以外のいろいろな人に聴いてもらうのも有益です。練習では、演奏を愛し、学ぶということを愛し、新しい感じ方を愛することで、自分の感情のレパートリーを増やしてほしいと思います。

 

受講生】楽器を超えて、音楽を伝えるためにはどうすればいいでしょうか?
プレスラー】大切な質問ですね、たしかに技術の問題があります。素晴らしい演奏家の演奏を聴くのがいいでしょう。彼らは楽器を弾くことの恐れを克服したことで、音楽の深みや表現に集中することができているのです。また、演奏会では聴衆を感じなければいけません。そして奏者に『聴いてほしい』という欲求や想いが湧き上がりはじめて聴衆の前で演奏できるのだと思います。偉大な演奏家は、ある一つの地点に留まらず、常に変化していくものです。あなたもそうあるべきです。

 

 

マスタークラス後に、できたてホヤホヤの『メナヘム・プレスラーのピアノ・レッスン』をお渡しし談笑するプレスラーさんと瀧川さん(右)
 

 『メナヘム・プレスラーのピアノ・レッスン』を読んで感じられることは、とにかく全てに愛情と感謝の念を持って人生を歩まれているということですが、この短い2時間半でも、音楽や教えることを愛し、そして新たな出会いに深く感謝して、誠心誠意指導されている姿を見ることができました。
つづく

 

   ――翻訳者:瀧川淳(熊本大学准教授、音楽教育学者)

 

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