2017.9.17 UP DATE

第3回:カメラマン 武藤章さん(1)その人の良さを、そのまま写真で出したい

コンサートホールに出かけると、会場前で大量に演奏会のチラシが配られています。音楽雑誌のページをめくれば、さまざまな公演やCDの新譜情報が載っています。そこで必ず目にするのが、アーティストの宣材写真(通称「アー写」)や、ジャケット写真、インタビュー時のカットなどの写真です。音楽と音楽家のメディアにとって、写真は欠かせないもの。今回の「つながり。」で訪問したのは、カメラマン武藤章さんのスタジオです。主にピアニストたちの素敵な写真を手がけている武藤さんにお話を伺いました。

 

取材・文:飯田有抄/写真:編集部

 

武藤章さんプロフィール

 

 

 


 

■ 最近のお仕事から

 

――いろいろな媒体で、よく武藤さんのお写真を拝見しています。ピアニストの小川典子さん、伊藤恵さん、三舩優子さんのお写真など、美しい写真ばかりです。

 

 

武藤 最近の若手のピアニストさんだと、萩原麻未さんや小林愛実さんのお写真もそうですね。萩原さんはこのスタジオで撮りました。

 

大人びた表情の萩原麻未さん。

 

――萩原さんの新しいアー写、とても素敵でびっくりしました。こちらも撮影は武藤さんでしたか! 最近は音楽的にも人間的にも、一段と成長されていますが、写真にそれが表れているように感じました。

 

武藤 事務所さんからも、成長に伴い少し雰囲気を変えた新しいお写真を、という依頼でした。

 

――武藤さんはこれまで、「ムジカノーヴァ」や「バンドジャーナル」といった雑誌の表紙の写真も担当されていますし、CDのジャケット写真なども手掛けておられますね。

 

武藤 「ムジカノーヴァ」は数年前から表紙がイラストになりましたが、その前までは多くのピアニストさんの写真を撮らせてもらいました。雑誌だと、毎月ではないですが「ショパン」や「ハンナ」の表紙も担当しています。CDは、最近だと、これですね。トランペットの佐藤友紀さんのジャケット。ここで撮影しました。

 

佐藤友紀さんのCD「prayer」のジャケット写真を担当。

 

――かっこいいですね! まるでトランペットから火が出てるみたい!

 

武藤 これね、トランペットを動かしてもらってるんです。それをスローシャッターで撮影。これは楽器を真っ直ぐ動かしてもらった写真ですが、回してもらったものなんかは、鳥が飛んでいるようで綺麗だった。

 

――すごいアイディアですね。

 

武藤 なんでこういう写真を撮ったかというと、雑誌の仕事では「しっかり楽器を見せて」という依頼ばかりなので、その反動で楽器をブラしてやろうと思ったんです(笑)。レコード会社からは「おまかせ」ということだったので、最初に自分で試作を撮って佐藤さんにお見せしたら、「これでいきましょう!」ということに。

 

 

 

■0.2秒で目に止まる写真を目指して

 

――武藤さんが音楽家の写真を撮影するときに、いつも心がけていることはありますか?

 

武藤 特にないです。

 

――え、そうなんですか。

 

 

武藤 アーティストの方は自分を発信する人たちですから、写真でどうこうしようというのではなく、その人の良さがそのまま出せたらいいなとは思っています。お寿司屋さんで「ヘイッ、おまち!」とトンっとお寿司を出すみたいに、単純に、シンプルに。

 

――たしかに、お寿司は素材そのものの質と鮮度が、そのまま味わえたら美味しい。

 

武藤 僕が目指している写真は、じっくり見て良さが伝わる写真じゃなくて、0.2秒で目に止まる写真です。コンサート会場でみんな大量のチラシを見ますけど、休憩時間とかにピピピピ……と見て、いらなければゴミ箱に捨てられちゃう。パッと見て、いかに目に止めてもらえるか。単純であれば単純であるほうが指が止まるだろう、と思うんです。「良い写真」というより「売れる写真」を目指しています。

 

 もちろんチラシはデザイン・ワークですから、写真はその中の一つの素材にすぎません。デザイナーさんが全体をデザインするときに、デザインしやすい写真を提供していければ間違いはないのかな、と。

 

――なるほど。でも目に止まる綺麗な写真を撮るには、やっぱり光の当て方とか角度とか、カメラマンさんの腕にかかっている部分は大きいと思いますけどね。

 

武藤 まぁ、ライティングも単純だから、そんなにテクニックとかないですよ。だいたい顔をメインに光を当てますが、お月様と一緒で、満月にしたいか、半月にしたいか、三日月にしたいかを考える。

 

 本当を言うと、人を綺麗に写したいと思ったら、綺麗な人がいればいいだけなんですよ。そこに人の手が入るとやっぱり違います。だから、僕は撮影時にヘアメイクさんの存在が絶対必須! ヘアメイクさんは偉大です。ピアニストにとっての調律師さんくらいに重要です。

 

 

 

■カメラマンの仕事の種類

 

――武藤さんは現在、アーティストの撮影がお仕事の中心ですが、カメラマンさんのお仕事には他にどんなジャンルというか、種類があるのでしょうか。

 

武藤 まずざっくり分けると、広告という分野と、報道という分野の大きく2つに分かれます。僕が手掛けているアーティストの写真は広告の分野に入ります。広告はクライアントからの発注を受けて、写真の技術を提供するという世界。報道は、自分が撮ったものを売り込む世界。でもカメラマンが100人いたら、働き方は100通りあると思います。僕は他の人がどう仕事をしているか知らない。報道の戦場カメラマンだって、勝手に撮影に行っているというよりも、「撮ってきてくれたら買い取りますからね」という話が、ある程度先にあるのだろうと思いますし。

 

 でも大きく分けて、その2種類でしょう。そのほかに、芸術作品としての写真というのがありますが、広告や報道の仕事をしてもらったギャラを使って、自分のポケットマネーで勝手にやるのが芸術。僕はそう理解しています。 

 

 

 僕の師匠・白鳥真太郎の話をすると、彼は広告カメラマンです。広告代理店から仕事を請け負い、クライアントのために仕事をする。ギャランティをもらうので、それを貯めて、一気に作品のために使っちゃう。仕事仲間のスタイリストさんやヘアメイクさんに協力してもらって作品を作り、それで写真展を開いたり、写真集を作ったり。僕にはまだそこまでの体力はないけれど、いずれできたらいいなぁと思います。

 

――あ、なるほど。私のようなライターも、クライアントからの発注を受けて文を書きますが、自分が書きたい本みたいなのは別にあって、でも、そっちでは「儲け」をほとんど期待せず、それを書くための調査費用なんかを発注仕事で稼いで……みたいな部分があるので、よくわかります。

 

武藤 同じですよね。

 

 

 

■カメラを持たずに写真学科へ

 

――どうしてカメラマンになろうと思ったのですか? いつから目指したのですか?

 

武藤 大学受験のときですね。高校時代は芝居の世界に憧れがあって、演劇部員でした。シェイクスピアの演劇が好きでしたね。セリフの一つ一つが歌のようで、こんなに美しい世界があるのか、と。絵も好きだったので美術部員も掛け持ちでして、夏休みに予備校のデッサンコースみたいなものにも通いました。

 

 でも美術も演劇も、僕には才能がないのをわかっていたんです。わかっていながら、大学受験案内の本を開いたときに「演劇」で調べたら、日本大学芸術学部があった。「すげえ!」と。まさか本当に大学で演劇学科があるとは思わなかった。しかも、日芸には演劇のほかに美術、写真、映画、文芸、音楽、放送と全部で7学科(現在はデザインもあって8学科)あるじゃないですか。大学に行くならここしかない、と思いましたね。

 

 で、写真学科を受けた。

 

――え、演劇でも美術でもなく……なぜそこで写真を?

 

 

武藤 美術も演劇も才能ないけど、写真だったらカメラを使って僕でもできそうな気がしちゃった。それと、美術関係で資生堂なんかの企業広告ポスターを見て、こういうものを作る仕事がしたいと思ったんですね。それならアートディレクターみたいな仕事を目指すべきなんですが、当時はそんな職種があることも知らなかった。そういうのはカメラマンが一人で作っているのかと思ってた。バカですよねぇ。それで、カメラも持たずに写真学科に入ってしまった。そんなバカは、大学史上、僕だけだったようです(笑)。

 

 

――なんと。よく試験に合格できましたね(苦笑)。実技はなかったんですか。

 

武藤 小論文と面接はありました。小論文は、アンリ・カルティエ=ブレッソンという写真家の写真を見せられて、「この作品は何を伝えようとしているか述べよ」みたいなのでしたね。カルティエ=ブレッソンは写真を勉強する人なら必ず知っている有名な写真家なのに、僕は全然知らなかった(笑)。でも論文は構成力の問題。筋の通った文章は書けたので合格できました。

 

――で、カメラも持ってないのに、入っちゃった!

 

 

武藤 同級生は、写真館の息子とか娘とか、高校時代写真部でしたとか、ずっと鉄道の写真を撮ってきましたとか、そういう人たち。僕はカメラに触ったこともなかった。

 

――授業が始まったら、カメラ使いますよね? どうしたんですか?

 

武藤 夏休みにアルバイトで稼いで、やっと夏休みも終わる頃にカメラを買いました。だから、夏休みが終わってから夏休みの課題を撮るかっこうに。授業までに間に合わせて。

 

――カメラを買うためのアルバイトは何をしたんですか?

 

武藤 カメラ売ってました(笑)。

 

 

 

(2)へ続く(2017年9月16日公開)

 


 

 プロフィール 

 

武藤 章 むとう・あきら

 

東京都出身。日本大学芸術学部写真学科卒業。
白鳥真太郎氏に師事。白鳥氏に広告からプライベート作品づくりに至る、
写真表現の奥深さや可能性を学ぶ。APA(日本広告写真家協会)の公募展で入賞後独立。
現在はポートレートを中心に、広告、雑誌、音楽CDジャケット等、様々な媒体で活動中。
公益社団法人 日本広告写真家協会正会員。

 

武藤さんによるセルフ・ポートレイト。
なんと、この連載のために撮り下ろしていただきました!

 

 

武藤さんのスタジオにはご自身で手づくりしたメイクルームがある。
こちらも飯田さんをモデルに、武藤さんが撮り下ろし!

 

 

武藤さんが手がけたアーティスト写真。
上:武藤さんの腕を当初から買っていたピアノ三舩優子さんと
ドラム堀越彰さんのデュオ「OBSSESION」のCD、
中左:ピアノ伊藤恵さん、中右:ピアノ小川典子さん、
下:ピアノ小川愛実さん。

 

 

 

 

 

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